鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
(まさか、そんな面倒な真似しないわよね。きっと自分が意見した事案の結果を聞かずに処理済みにするのが嫌なだけよ。私もそうだもの)

結果の報告を約束すると、昴が目を細めた。

「もうひとつ、頼んでいい?」

「どんなこと?」

「そのマスコットと同じものを俺にも作って」

思いもよらないお願いに驚きの声が漏れた。

「欲しいの?」

「夫婦でお揃いのものを持ちたい。君は結婚指輪をしないから、マスコットならと思ったんだ」

昴は結婚指輪をしているが、絢乃は一度もはめていない。

ビジネス婚なので指輪は不用だという本音を隠し、指になにかがついていると落ち着かないと言い訳したのを覚えている。

(お互いに愛情がないのに、同じものを持つ意味は?)

絢乃にはわからないが、昴がそうしたいならそれでもいいと思った。

けれどもひとつ問題がある。

「私が作るのよね……?」

「裁縫が苦手なら諦めるよ」

「このくらいの小さなものなら作れるわよ」

強がってしまったが、料理と同じで裁縫の経験も学校の授業のみだ。

(材料は多めに買わないと。何度でも作り直せるように)

頭の中でフェルト生地やビーズがどのくらい必要かを考えていると、昴が立ち上がった。

その口角は上がっている。

「楽しみにしてるよ。このあと、寝るんだろ?」

「ええ」

「シャワーの音がうるさかったらごめん。おやすみ」

「おやすみなさい」

スタイルのいい後ろ姿を見送ってから、ぬるくなったマグカップのミルクを飲み干した。

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