鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
(眠れそうな気がする)

ミルクのおかげではなく、昴が話を聞いてくれたからだろう。

帰宅時よりも気持ちが楽になり、口からはあくびが漏れた。



それから二週間ほどが経った日曜日。

絢乃は自室でライティングデスクに向かっている。

机上にはフェルトの切れ端や綿、糸や針刺しが置かれていた。

昴に約束したうさぎのマスコット人形を作っている最中だ。

(もう少しで完成するわ……痛っ)

指に針を刺したのは何度目か。

ティッシュペーパーで押さえて止血し、また縫い始める。

料理と同様に裁縫の才能もなく、休日や隙間時間でチマチマと作業していた。

四苦八苦しているが、この時間は悪くない。

下手だからこそ集中力が必要で、仕事も美沙のことも忘れて没頭できるからだ。

(悩まなくてすむから気持ちが楽。もしかして昴さん、最初からそれを狙ってた?)

考え過ぎとは思うが、彼ならそこまで読んでいそうな気もした。

朝から時が経つのも忘れて縫い続け、ついにその時を迎えた。

「できたわ!」

母が作った親友と並べてみると、あきらかに不格好だ。

縫い目が均一でなく、輪郭のカーブもいびつである。

それでも苦労した分、愛着が湧いて可愛いと感じた。

「手放すのが惜しくなるわね。でも約束だから昴さんにあげないと。出来栄えはいまいちだけど、喜んでくれるかしら……」

期待と不安が入り混じったその時、ドアの向こうで物音がした。

「ただいま。絢乃さん、いる?」

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