鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
敵意のこもった視線を背中に感じるのは気のせいか。

花瓶は洗面所の収納棚の下だ。

逃げるように洗面所に入り、そっと後ろを振り返る。

「絢乃ちゃんが来たわよ」という伯母の明るい声と、リビングのドアが閉まる音が聞こえた。

(自分でも気づかないうちに、失礼なことをした?)

会うのは今日が二度目なのに、なにをしてしまったというのだろうか。

花瓶を出して花を生けながら困惑した。

北側にある仏間に入り、お花と菓子折りを供えて手を合わせる。

いつもは心の中で母に色々とはなしかけているが、今日は気もそぞろだ。

(なにが嫌なのか美沙さんに聞いてみないと始まらない。でも改善できることならいいけど、そうじゃないなら私は……)

「休日なのに、夫を放っておいていいのか?」

襖が開いて和志が入って来た。

からかうような口調と笑顔を見る限り、美沙が絢乃に嫌悪感を抱いているのには気づいていないようだ。

夫婦関係にひびが入っては困るので、その件で和志には相談できない。

(言ったところで、お兄ちゃんは深刻に捉えないわよね)

『慣れてないからだろ。もっとうちに来いよ。一緒に飯食ってるうちに仲良くなれるって』

美沙のストレスも考えずにそんなアドバイスをしてきそうだ。

「ん? どうした?」

目の前であぐらを組んだ和志に首を横に振り、ハンドバッグからご祝儀袋を出した。

「結婚式はしないと聞いたから、お祝いを今渡すわ。おめでとう」

和志がバツの悪そうな顔をする。

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