鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
「先に結婚した絢乃にまだあげてないのに。お前は結婚式するんだろ? その時にと思ってたから」

父には仕事が落ち着いたら結婚式を考えると話してあり、三条家の家族にもそのうちと伝えていた。本心では離婚するから結婚式はしたくないと思っているけれど。

「順番はどうでもいいよ。受け取って」

和志の手にご祝儀袋を押しつけると、ギョッとした顔をされた。

「重っ。いくら包んだんだよ」

「普通は面と向かって聞かないものよ。さあ、お参りが終わったからリビングに行きましょう」

「ありがとな」

ポンと頭に手がのって、笑みが崩れそうになる。

思い出の詰まった温かい居場所を失う予感がしたからだ。

(しっかりしないと。一番大切なのはなに? 美沙さんと三条家のみんなが幸せに暮らしていくことよ)

和志と仏間を出て廊下を進む。

リビングの斜め向かいに台所があり、そのドアは開いていた。

お茶の用意をしてくれている美沙の後ろ姿が見え、ふたりで話せるチャンスだと思った。

「お茶を淹れるのを手伝うわ。お兄ちゃんはリビングで待っていて」

「ん? ああ、美沙がやってくれてんのか。それじゃ俺も――」

「三人もいらないわよ。それに、お兄ちゃんの淹れたお茶って微妙なのよね」

「そんなふうに思ってたのかよ」

大袈裟にショックを受けたような顔をしてみせてから、和志がリビングに入っていった。

緊張を隠して笑みを作り、八畳ほどの台所に足を踏み入れた。

ガスコンロにはやかんがかけられている。

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