鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
流し台に対面して置かれている木製の調理台に、煎茶の筒と紅茶の缶、個包装のドリップコーヒーが出されていた。

家族の好みに合わせて淹れようとしているようだ。

「美沙さん、私も手伝うわ」

丸いスツールに帽子とハンドバッグを置いて声をかけたが、美沙は振り向かない。

「私だけで大丈夫です。絢乃さんもリビングへどうぞ」

「手伝わせてほしいのよ。美沙さんとお話もしたいから」

レモンをスライスしていた美沙が、手を止めて振り向いた。

遠慮なく眉根を寄せられ、拒絶感が伝わってくる。

(切り出しにくい……)

取り合えず食器棚から急須を出し、煎茶の筒を開けた。

「おばあちゃんが煎茶、伯母さんが紅茶、男性ふたりはコーヒーよね。私もコーヒーにするわ。美沙さんはノンカフェインの飲みもの?」

問いかけへの返事はなく、苛立っているような声で問い返される。

「話ってなんですか?」

「改まってするような話じゃないのよ」

「雑談ならリビングでしたらどうですか。絢乃さんと話したい人たちが待っていますから」

(穏やかに話し合うのは無理なようね)

背を向けられそうなので、すぐに問題に踏み込む。

「美沙さんは私が苦手? なにがいけなかったのか自分ではわからなくて困っているの。教えてくれないかしら? 失礼なことをしたのなら謝らせて」

ピクッと肩を揺らした美沙が視線を逸らした。

考えているような様子だったので返事を待っていたが、はぐらかされる。

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