鉄の女社長は離婚したいのに人たらし御曹司に溺愛される
「気のせいですよ。絢乃さんは素晴らしい女性で、それはこの家のみんなに何度も聞かされたのでよくわかっています」

(何度も? 私がいない日にも、私の話題が出ているってこと?)

なんとなく原因が見えた気がした。

「ごめんなさい。それは嫌だったわよね。なるべく私の話をしないように、お兄ちゃんに――」

伝えると言おうとしたが、その前に強い口調で遮られる。

「お兄ちゃんと呼ぶの、やめてもらえますか!」

(呼び方の問題なの?)

どうして嫌なのかわからず困惑していると、美沙の目に涙の幕が張った。

会社では厳しい叱責で社員を泣かせても冷徹な顔を崩さないが、今はオロオロしてしまう。

ハンドバッグからタオルハンカチを出して美沙に渡し、スツールを勧めた。

「ここに座って。落ち着いて話しましょう。美沙さんが嫌なら呼び方を変えるわ。でもどうしてなのか理由を知りたいの。教えてくれる?」

「優しくしないで……これじゃ、私が悪者みたい……」

「そんなことないわ。美沙さんはお兄ちゃんの大切な人だもの。あっ、ごめんなさい。この呼び方が嫌なのよね。どうして?」

タオルハンカチに目を押し当てている美沙が、震える涙声で話しだす。

「早くこの家に馴染もうと頑張っているのに、うまくいかないんです。なにをしても絢乃さんに敵わない。比べられている気分になっちゃって……」

義理の両親は手放しで絢乃を褒めるし、和志には子供の頃の絢乃との親密なエピソードを聞かされる。

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