イケメンIT社長に求婚されました ―からだ目当て?……なのに、溺愛が止まりません!―
「……ねえ、あれ……」

営業フロアの入口近くで、先輩の野崎さんが私の肩を叩いた。

「社長じゃない? こっち来てる……!」

「えっ……?」

振り返る前に、社内の空気が一瞬、ピンと張りつめた。

革靴の足音。

重ねた書類を揺らさないほど無駄のない歩き方。

すれ違う社員が小さく頭を下げるたび、流れるように返される会釈。

──圧倒的な存在感。

社長は、相変わらず整いすぎていた。

整った栗色の髪、吸い込まれそうな茶色の瞳、すらりとした長身。

スーツすらモデルのように着こなすその姿は、ため息が出るほどだった。

「……望月さん」

名前を呼ばれて、心臓が跳ねた。

え、なんで私……?

「少し、話せる?」

「は、はい」

周囲の視線が一斉に集まるのを感じながら、
私は社長のあとを追って、隣の休憩スペースへ。


ガラス張りの窓際、春の陽射しに包まれたスペースに、
社長が軽く腰を下ろす。

私も緊張しながら対面に座ると、社長は静かに口を開いた。

「最近、よく勉強してるって聞いた。研修プログラムの履修記録、見たよ」

「……えっ」

まさか、見られていたなんて。

「サーバーのアクセス履歴に名前があってね。
夜中に、よくログインしてる」

「そ、それは……なんというか……」

言葉に詰まっていると、社長がふっと笑った。

「頑張ってるね。……俺、そういう人、好きだよ」

ドクン、と音がした気がした。

それは、心臓なのか、空気の振動なのか。

「……そ、そんな、まだ全然で……」

「言い訳はしないほうが、かっこいい」

そう言って、社長が少し身を乗り出す。

「『私なんか』って言葉、最近使ってないね。ちょっと安心した」

近い。近い。距離が反則。

「……覚えてたんですか?」

「君のこと、忘れたことなんてないよ」

 

その瞬間、時間が止まったような気がした。

昼休みのはずなのに、外の音が遠く感じる。
ただ、目の前の社長の表情と声だけが鮮明で──

「……そういう顔、反則です」

「ん? どういう意味?」

「……なんでもないですっ」

思わず目をそらすと、社長はいたずらっぽく笑った。

「でも、君がそうやって笑うのを見るのが、俺は一番嬉しい」

 
なにそれ。

ズルい。
ずるすぎる。

社長の言葉は、いつだって本気だから、
余計に胸の奥を揺らしてくる。

 
「そろそろ戻ろうか。……また、話せるといいね」

そう言って立ち上がった社長が、
ほんの一瞬だけ、私の頭に手を置いた。

ぽん、と。

優しくて、でもちゃんと重みのある感触。

それだけで、顔が熱くなる。

(……ほんとに、反則です)

背中を見送る間じゅう、
ずっと鼓動が早くて、しばらく席に戻れなかった。

この人が、私のことを見てくれてる。
それだけで、少しだけ、また頑張れそうな気がした。
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