イケメンIT社長に求婚されました ―からだ目当て?……なのに、溺愛が止まりません!―
【葉山律 side 】

静まり返ったオフィスで、
ソファの背にもたれたまま、俺は天井を見上げていた。

昼間の会議の内容なんて、
一つも頭に入っていない。

あの日──

彼女を壁際に押しやって、
衝動のままに唇を奪ったあの瞬間から、
俺は何かを壊してしまった気がしてならなかった。

 

「……やってしまった」

ひとりごとのようにこぼしても、
返ってくる声はない。

だが、心のなかでは陽菜の目が何度も浮かんでは消える。

俺を見ていた彼女の瞳は、
──怯えていた。

好きな人に向ける表情じゃなかった。

あれは、明らかに「怖がる」顔だった。

 

自分が許せない。
あんなふうにしてしまった自分が。

ずっと、彼女の気持ちが揺れていることに気づいていた。
水野と話している姿を、何度も見かけた。

でも、それでも信じていたかった。

「最後は、俺を選んでくれる」って。

それが傲慢だった。
思いあがりだった。

 
──見せたくなかった。
彼女の手にふれて、顔を赤らめる水野の表情も。
その隣で、楽しそうに微笑んでいた陽菜の横顔も。

見なければよかったのに。
でも、見てしまった瞬間、
心のなかの何かがプツンと切れた。

俺のなかに眠っていた独占欲が、牙をむいた。

気づけば、彼女にキスをしていた。
強く。乱暴に。自分のものだと刻みつけるみたいに。

 
「……バカだな、俺は」

君を守るためにそばにいたのに。
なのに、守るどころか──君の心に傷をつけてしまった。

 

俺は、彼女にとって「優しい人」でいたかったはずなのに。

本気で好きになったからこそ、
彼女の唯一になりたかった。

でもそれは、
力でつなぎとめることじゃなかったんだ。

 

今日、彼女からの連絡はない。
Velvetのアクセスログも、昨日から止まっている。

彼女がアプリを開かないのは、
たぶん俺の声に似た「誰か」から距離を置きたいからだ。

──俺を、怖がってる。

それが、なにより辛い。

 

俺は、彼女を好きでいたい。
でも、それ以上に「彼女にとって好きでいられる自分」でありたい。

なら、どうすればいい?

 

答えは、もう決まっている。

「……時間を置こう。今は」

すぐに謝りに行くこともできる。
だけどそれは、また押しつけになるかもしれない。

だから俺は──
彼女がもう一度、俺の名前を呼びたくなるその日まで。

ただ、待つ。

どれだけ時間がかかっても。
君の気持ちが、また俺に向くまで。

 
「……君が、笑ってくれるなら」

それがどんなに遠回りでも、
それがいちばん、ちゃんとした愛し方だから。
< 28 / 61 >

この作品をシェア

pagetop