イケメンIT社長に求婚されました ―からだ目当て?……なのに、溺愛が止まりません!―
「Velvet、すごい勢いでユーザー数戻ってきてます!」

月曜朝の全体ミーティング。
開発部から報告されたその一言に、社内がざわめいた。

「AIなのに、ちゃんと寄り添ってくれるって感想、SNSにあふれてますよ」
「まさかのV字回復……奇跡だね」

「奇跡じゃない。積み重ねたものの結果だよ」

静かにそう言ったのは、社長だった。

その声に、一瞬みんなが口をつぐむ。

けれどそのあと──
まるで光が差し込んだみたいに、空気があたたかくなった。

 

「社長の背中、なんか久しぶりに真っ直ぐ見えた気がする」
そんな声が、小さく聞こえてきた。

(ほんとに……よかった)

私は心の中で、そっと手を合わせた。

 



 

その日の午後、私は新たに任されたプロジェクトの準備に追われていた。

正社員になってからというもの、
責任あるポジションで仕事を任されることが増えた。

資料の確認、外部企業との調整、
社内AIカスタマイズの要望集約──

忙しくて息が詰まりそうな瞬間もあるけれど、
今の私は、確かに「このチームの一員」になっていた。

(戻ってきて、よかった)

そう思えるたびに、
胸の奥がじんわりあたたかくなる。

 

「望月さん、ここの文言、すごく自然ですね。
ユーザー目線ってこういうことなんだなって思いました」

チームリーダーにそう言われて、
思わず「ありがとうございます」と頭を下げた。

そのとき。

「そのセンス、俺が惚れた理由のひとつだな」

背後から聞こえた声に、
心臓が跳ねた。

振り返ると、そこには社長が立っていた。

ただの冗談──のはずなのに、
彼の目がまっすぐすぎて、笑えなかった。

「社長……! ここ、業務中です……!」

耳まで熱くなる私に、
社長は口元だけで笑ってみせた。

「業務中だからこそ、信頼も伝えておかないと」

 

それが、「恋人」と「同僚」の間に立つ社長なりのけじめなのだと、
なんとなくわかった。

誰よりも冷静で、厳しくて、
でも、誰よりも人を信じている。

私も、その目で見られていた。

恋人としてではなく──
ちゃんと、ひとりの社会人として。

 

「あとで、会議室に来てくれる?
少し、ふたりで話したいことがある」

「……はい」

頷くと、社長は静かに去っていった。

(仕事の話なのか、私たちの話なのか──)

どちらにしても、
私はもう、逃げるつもりなんてなかった。

この人と歩くって決めたから。

恋人として、そして仲間として。
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