イケメンIT社長に求婚されました ―からだ目当て?……なのに、溺愛が止まりません!―
ノックして、会議室のドアを開けた瞬間──
空気が少しだけ、いつもと違う気がした。

長机の端に座っていた社長は、
資料ではなく、ただ手を組んで私を待っていた。

「……来てくれて、ありがとう」

「いえ。あの、何か話って……」

促すように向かいに腰を下ろすと、
社長は一呼吸おいてから、静かに口を開いた。

「Velvetの今後について、少し考えてることがあるんだ」

「今後、ですか?」

「うん。システムの安定は見えてきたけど、
正直なところ──このまま順調にいくとは限らない」

その声音は落ち着いていたけれど、
どこかで不安を想定しているような響きがあった。

「君には、ちゃんと話しておきたかった。
俺は、ただこのアプリをヒットさせたいわけじゃない。
人に寄り添うって、簡単に言えることじゃないから」

「……はい」

「でも、君がそばにいるなら、
俺はこの先もきっと、まっすぐ考えていけると思う」

 
それは、まるで宣言のようだった。

業務の相談じゃなくて。
経営戦略の共有でもなくて。

もっと個人的で、本質的な想い。

 

「望月さん」

改まった呼び方に、少し身構える。

でも、その声はとても優しかった。

「君と一緒に働いていると、
俺のほうが支えられてるって実感するんだ」

「……社長……」

「恋人としてだけじゃなく、
ちゃんと仲間としても、君のことを信頼してる。
今の俺には、君の意見が必要だ」

 

一瞬、言葉を失った。

それは、いち社員への評価以上のものだった。

役職も肩書も越えて、
人として必要とされるということ。

そして、それが好きな人からの言葉であること。

 

「……うれしいです。
わたしも、社長と働くのが好きです」

ようやく声にすると、社長はふっと微笑んだ。

「君がここに戻ってきてくれて、よかった」

「──わたしも」

その静かな会議室の中で、
心と心が重なる音がしたような気がした。

 

そのあと、ふたりは資料を見ながら
今後の開発方針について意見を交わした。

でも、どんな内容よりも、
あの一言が私の背中を押してくれた。


「俺のほうが支えられてる」

恋をして、仕事をして。
悩んで、迷って、それでも向き合って。

そうやって、
わたしたちは少しずつ、同じ景色を見られるようになっていく。
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