イケメンIT社長に求婚されました ―からだ目当て?……なのに、溺愛が止まりません!―
「そろそろ行く」
社長がそう言ったのは、
金曜日の朝、出社前のエレベーターホールだった。
重たいスーツケース。
スマートなスーツ。
いつものクールな表情に、ほんのわずかな翳り。
それでも彼は、
どこまでも「社長」だった。
「現地での立ち上げ、スムーズに進めたい。最短で戻るつもりだ」
「はい」
「君のことは……信じてる。だから何も言わない」
それだけを告げて、
彼は私の頭をひと撫でして、エレベーターに乗り込んだ。
最後まで「さよなら」とは言わなかった。
*
月曜日の朝。
デスクに社長の姿はなく、
会議も社内チャットも、彼のアイコンは「海外」表示のままだった。
それだけのことなのに、
なぜか空気が違って感じた。
「葉山さん、無事着いたらしいよ」
「関係者と打ち合わせだって」
同僚たちのそんな会話が、どこか遠くで響いているように聞こえた。
誰も悪くない。
みんなはいつも通りで、スケジュールは滞りなく進んでいる。
でも、胸の奥が妙にざわつく。
何かが欠けたまま動き続ける世界に、
自分だけがぽつんと取り残されたような気がした。
──これが、「距離」なんだ。
Velvetを起動すれば、やさしい声が返ってくる。
でも、どうしても満たされなかった。
ほんとうに聞きたいのは、
あの人の声だった。
ノートを広げ、ITの教材に目を通す。
わかってる。今の自分に必要なのは、努力だ。
少しでも成長して、堂々と隣に立てるようになりたい。
でも、文字はなかなか頭に入ってこなかった。
スマートフォンをちらりと見る。
新着のメッセージがひとつ。
《現地順調。時差の関係で返信遅れるけど、心配しないで》
あたたかい言葉。
ちゃんと気遣ってくれてるのもわかってる。
でも、画面の光だけじゃ、心まで温めることはできなかった。
翌日も、また次の日も。
彼がいないだけで、社内が妙に静かだった。
会議の合間に誰かが冗談を言っても、
どこか中心が抜けたままだった。
誰もそれを言葉にはしなかったけれど、
あの人の存在感の大きさを、痛いほど実感させられた。
誰かがいてくれることで、
こんなにも自分の毎日が支えられていたなんて、
今になってようやく気づくなんて。
私は、まだ「好き」に甘えていたのかもしれない。
夜がくるたびに、部屋の静けさが胸に響く。
寝る前にスマートフォンを開いても、
既読がついてないだけで、心が沈んだ。
明日、あの人が笑ってる姿を見たい。
今日、声を聞きたかった。
一瞬でも会いたかった。
──もうすぐ、きっと慣れる。
そう言い聞かせてみるけど、
その慣れが、なにかを手放すことのようで怖かった。
彼のいない日常に適応することが、
まるで自分の気持ちを削る作業のように感じてしまう。
でも、それでも──
彼がくれた言葉は、胸のなかに残っている。
「信じてる」
その一言だけで、私はまた立ち上がれる。
さよならを言わなかった、あの朝の沈黙。
あれは、
ちゃんと帰ってくるつもりでいるという約束だったと、私は信じてる。
わたしは、まだ隣にいたい。
遠く離れていても、変わらず彼の隣で、心を寄せていたい。
──ずっと、ここで待っていたいと思ってる。
社長がそう言ったのは、
金曜日の朝、出社前のエレベーターホールだった。
重たいスーツケース。
スマートなスーツ。
いつものクールな表情に、ほんのわずかな翳り。
それでも彼は、
どこまでも「社長」だった。
「現地での立ち上げ、スムーズに進めたい。最短で戻るつもりだ」
「はい」
「君のことは……信じてる。だから何も言わない」
それだけを告げて、
彼は私の頭をひと撫でして、エレベーターに乗り込んだ。
最後まで「さよなら」とは言わなかった。
*
月曜日の朝。
デスクに社長の姿はなく、
会議も社内チャットも、彼のアイコンは「海外」表示のままだった。
それだけのことなのに、
なぜか空気が違って感じた。
「葉山さん、無事着いたらしいよ」
「関係者と打ち合わせだって」
同僚たちのそんな会話が、どこか遠くで響いているように聞こえた。
誰も悪くない。
みんなはいつも通りで、スケジュールは滞りなく進んでいる。
でも、胸の奥が妙にざわつく。
何かが欠けたまま動き続ける世界に、
自分だけがぽつんと取り残されたような気がした。
──これが、「距離」なんだ。
Velvetを起動すれば、やさしい声が返ってくる。
でも、どうしても満たされなかった。
ほんとうに聞きたいのは、
あの人の声だった。
ノートを広げ、ITの教材に目を通す。
わかってる。今の自分に必要なのは、努力だ。
少しでも成長して、堂々と隣に立てるようになりたい。
でも、文字はなかなか頭に入ってこなかった。
スマートフォンをちらりと見る。
新着のメッセージがひとつ。
《現地順調。時差の関係で返信遅れるけど、心配しないで》
あたたかい言葉。
ちゃんと気遣ってくれてるのもわかってる。
でも、画面の光だけじゃ、心まで温めることはできなかった。
翌日も、また次の日も。
彼がいないだけで、社内が妙に静かだった。
会議の合間に誰かが冗談を言っても、
どこか中心が抜けたままだった。
誰もそれを言葉にはしなかったけれど、
あの人の存在感の大きさを、痛いほど実感させられた。
誰かがいてくれることで、
こんなにも自分の毎日が支えられていたなんて、
今になってようやく気づくなんて。
私は、まだ「好き」に甘えていたのかもしれない。
夜がくるたびに、部屋の静けさが胸に響く。
寝る前にスマートフォンを開いても、
既読がついてないだけで、心が沈んだ。
明日、あの人が笑ってる姿を見たい。
今日、声を聞きたかった。
一瞬でも会いたかった。
──もうすぐ、きっと慣れる。
そう言い聞かせてみるけど、
その慣れが、なにかを手放すことのようで怖かった。
彼のいない日常に適応することが、
まるで自分の気持ちを削る作業のように感じてしまう。
でも、それでも──
彼がくれた言葉は、胸のなかに残っている。
「信じてる」
その一言だけで、私はまた立ち上がれる。
さよならを言わなかった、あの朝の沈黙。
あれは、
ちゃんと帰ってくるつもりでいるという約束だったと、私は信じてる。
わたしは、まだ隣にいたい。
遠く離れていても、変わらず彼の隣で、心を寄せていたい。
──ずっと、ここで待っていたいと思ってる。