心地いい風
週末、私の体調もすっかり元通りになった。
昼間は一緒にスーパーへ行って食材を買い、夕方にはカレーを作って、二人でお腹いっぱい食べた。
そんななんでもない一日だったのに、夜になると決まって、あの時間がやってくる。
私はお風呂を済ませ、バスタオルで巻いた髪に手を添えて、リビングへ歩いていく。
「ただいま、ドライヤータイムです」
そう言って笑いながら近づくと、千歳くんがゆっくり立ち上がった。
「おかえり。はい、今日もおしごと」
手を差し出してくるから、私は何も言わずにその手にドライヤーを預ける。
「ソファ、座って」
「うん」
何気ないやりとり。それなのに、心がふわっとほどけていく。
千歳くんの手が髪に触れ、温風が頭を撫でる。
そのたびに、目を閉じる私の頬がゆるむ。
「気持ちいい?」
「うん、すごく」
その一言だけで、彼の口元がふっとゆるむのがわかる。
「……ねぇ」
「ん?」
「これから先、もっと忙しくなったり、子どもができたりしてもさ」
「うん」
「この時間、ずっと続けていけたらいいね」
「――続けるよ。だって、これは俺の“担当”だから」
そう言って、彼は少しだけ自慢げに笑った。
私もつられて笑ってしまう。
風が、窓のすき間から入ってくる。
カーテンがふわりと揺れて、部屋の空気がやさしく包み込まれる。
髪を乾かすだけの時間が、いつしかふたりにとっての“約束”になっていた。
大げさな言葉や、指輪や、誓いなんかよりもずっと、毎日のやさしい“習慣”のなかに愛がある。
「……明日も、あさっても、来年も。きっとまた、こうして風が吹くたびに思い出すんだろうな」
「なにを?」
「この時間のこと」
「じゃあ、そのときもちゃんと髪乾かしてね」
「もちろん。毎日、風が気持ちよく感じられるように、ちゃんとね」
彼の声に、心がまたあたたかくなっていく。
今日も、やさしい風が吹いている。
昼間は一緒にスーパーへ行って食材を買い、夕方にはカレーを作って、二人でお腹いっぱい食べた。
そんななんでもない一日だったのに、夜になると決まって、あの時間がやってくる。
私はお風呂を済ませ、バスタオルで巻いた髪に手を添えて、リビングへ歩いていく。
「ただいま、ドライヤータイムです」
そう言って笑いながら近づくと、千歳くんがゆっくり立ち上がった。
「おかえり。はい、今日もおしごと」
手を差し出してくるから、私は何も言わずにその手にドライヤーを預ける。
「ソファ、座って」
「うん」
何気ないやりとり。それなのに、心がふわっとほどけていく。
千歳くんの手が髪に触れ、温風が頭を撫でる。
そのたびに、目を閉じる私の頬がゆるむ。
「気持ちいい?」
「うん、すごく」
その一言だけで、彼の口元がふっとゆるむのがわかる。
「……ねぇ」
「ん?」
「これから先、もっと忙しくなったり、子どもができたりしてもさ」
「うん」
「この時間、ずっと続けていけたらいいね」
「――続けるよ。だって、これは俺の“担当”だから」
そう言って、彼は少しだけ自慢げに笑った。
私もつられて笑ってしまう。
風が、窓のすき間から入ってくる。
カーテンがふわりと揺れて、部屋の空気がやさしく包み込まれる。
髪を乾かすだけの時間が、いつしかふたりにとっての“約束”になっていた。
大げさな言葉や、指輪や、誓いなんかよりもずっと、毎日のやさしい“習慣”のなかに愛がある。
「……明日も、あさっても、来年も。きっとまた、こうして風が吹くたびに思い出すんだろうな」
「なにを?」
「この時間のこと」
「じゃあ、そのときもちゃんと髪乾かしてね」
「もちろん。毎日、風が気持ちよく感じられるように、ちゃんとね」
彼の声に、心がまたあたたかくなっていく。
今日も、やさしい風が吹いている。


