酔って寝てたら保護されましたが、これが恋の始まりだなんて聞いてません〜警察官の甘やかな独占欲に包まれて〜
奈緒は、午後四時ごろ、上司に促される形で早退することになった。
連続の早退に、気まずさと情けなさが混ざる。

ちょうど出発しようとしていた花夏が声をかけてきた。

「また早退?ほんと、無理すんじゃないよ」

奈緒は苦笑いで返すのがやっとだった。
会社を後にし、重い足を引きずるように駅へ向かう。

頭がガンガンする。
視界が揺れる。
ふらつく。
動悸がする。
体中の力が抜けていくような、異常な倦怠感。

風邪の症状を煮詰めたような体で、なんとか歩を進める。
タクシーで帰れと何度も言われたが、火照った体を冷ましたくて上司にはわかりましたと言って会社を後にした。

でも、本当は。
自分なんかがタクシーに乗れるような“クラス”じゃない。

そうだ、自分なんて。
酔いつぶれて道に寝ていても、誰にも気づかれないような、そんな女。

……いや。
あの人だけは、気づいてくれた。

(なんでこんなときに……)

思考の止まりかけた頭で、駅にたどり着く。
いつもは階段でホームに上がる。

けれど今日は無理だ。
やっとの思いでエレベーターを見つけ、ボタンを押す。

……動かない。

もう一度押す。
反応がない。
よく見ると、張り紙が貼ってあった。

「故障中」

最悪。
そう思いながら、足を引きずって歩く。

視界がまた揺れ始める。
ピントが合わない。

外から真冬の強風が吹き込み、コートの隙間から冷気が容赦なく入り込む。
身震いする。

「うぅぅ……きつい」

さっき倒れたときに打ったのか、背中もじわじわと痛んできた。

……もう、限界。

駅の隅。
人気のない、改装中の店舗の前にしゃがみこむ。

そのあたりには、まだ夕方だというのに座り込んで眠っている人もいた。

(また……泥酔みたいじゃん)

そう思いながら、ほんの少しの間、目を閉じた。
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