酔って寝てたら保護されましたが、これが恋の始まりだなんて聞いてません〜警察官の甘やかな独占欲に包まれて〜
帰宅した頃には、外の空はすっかり暮れていた。

玄関を開けると、部屋の中は朝のままで、どこか自分のいない時間だけが流れていたような静けさに包まれていた。

コートを脱いで、カバンを床に落とすように置く。
そのまま、リビングのソファにぐったりと身体を預けた。

熱っぽさと倦怠感で、思考の輪郭がぼやける。

それでも、頭の中に残っているのはあの声、あの手の感触、あの穏やかな笑顔。

──名刺、捨てなきゃよかった。

つぶやいた瞬間、胸がズキンと痛んだ。
あの名刺が、今ここにあれば。

何もできなくても、ただ見つめるだけで、少しは落ち着けたかもしれないのに。

あの夜、連絡を断ち切るように破った自分の指先が恨めしい。

泣いて、怒って、終わらせたつもりだったのに。
全然終わってなんかいなかった。

今日また、あの人に救われてしまった。
優しくされるたびに希望が芽生えて、でもそれがすぐに絶望に変わる。

そんな感情の往復に、もう身体も心もついていけなかった。
息をするたび、胸の奥が締めつけられる。

涙がまた勝手にこぼれてきて、目の奥がじんと熱を持つ。

──諦めきれない。諦めたいのに、どうして。

喉が詰まり、嗚咽が漏れた。

どうしようもない苦しさに襲われ、ソファから立ち上がる気力もなく、
ようやくの思いでベッドにたどり着いた。

服も着替えず、頬の涙も拭かないまま、
そのままシーツに身を沈める。

涙の跡が枕にじわりと染みていく。

その夜も、奈緒は泣き疲れた身体を布団の中に横たえながら、
静かに、静かに目を閉じた。
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