酔って寝てたら保護されましたが、これが恋の始まりだなんて聞いてません〜警察官の甘やかな独占欲に包まれて〜
奈緒は自席へと戻り、ゆっくりと椅子に腰を下ろした。
目の前に広がるいつもの風景が、どこか少しだけ違って見えた。

さっきまで狩野に言われたことを、一つずつ頭の中で反芻する。
都丸さんが妊娠して、現場を離れる。
そして、その後任として自分が選ばれたこと。

「もうダメだと思ってたのに……」

奈緒は小さく呟いた。
プレゼンに負けたときは、すべてを出し尽くして力尽きた気がした。
可能性も、悔しさも、全部飲み込んで諦めた。

でも――

「しかも、都丸さんはぜひ私にって……」

胸の奥で、鼓動がわずかに高鳴った。
信頼されたという事実が、じわじわと心に沁みていく。

そして、不意に思い浮かぶのは、瀬戸の姿。

真冬の駅で見つけてくれた優しい声。
交番で差し出された温かいほうじ茶。
そして、泣く自分を見つめてくれたまなざし。

――また一緒に、仕事として関われる。

ただそれだけで、胸に張り詰めていた何かが、少しずつほぐれていく気がした。
思わず、手元にあったボールペンを握りしめた。

もう一度、ちゃんと前を向こう。
そう、静かに自分に言い聞かせた。
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