酔って寝てたら保護されましたが、これが恋の始まりだなんて聞いてません〜警察官の甘やかな独占欲に包まれて〜
打ち合わせの後、新宿署の広報担当者・中島が奈緒に声をかけてきた。
「ちょうど昼時なので、食事でもいかがですか?」

突然の誘いに、断る理由も見つからず、奈緒は「はい」と微笑んで答えた。

そのとき、書類を束ねていた瀬戸が、ほんの一瞬だけこちらを見た気がした。

目が合ったわけではないのに、視線の気配だけで、胸がキュッと高鳴る。

(本当は、食事に行きたいのは瀬戸さんなんだけど)
心の奥で、そっとそう呟く。

交番の前に立ち、所長の樋口と立ち話をしている中島を待っていると、瀬戸が交番の中から出てきた。

にこっと笑って会釈をすると、奈緒は思わず声をかけた。
「またパトロールですか?」

瀬戸は少し顔をほころばせて、
「いえ、昼ごはんを調達に。隙を見ていかないと、食べそびれるので」と言い、近くのコンビニを指差した。

「お忙しそうですもんね」と奈緒が言うと、瀬戸は笑って頷いた。

そしてふと交番の中を一瞥しながら、
「中島と、食事行くんですか」
と聞いてきた。

その目は、どこか潤んでいて、ほんの少しだけ、寂しそうだった。

どうして、そんな目をするの?

奈緒は胸が詰まりそうになりながらも、なるべく冷静に言葉を返す。

「はい、パトロールの同行は注意点もあるので、改めて伺っておきたいと思って」

仕事色を強調するように言ったのに、瀬戸は「そうですか」とだけ言って、小さく笑った。

「頑張ってくださいね」

たったそれだけの言葉なのに。
奈緒の胸は跳ねるように高鳴った。
言葉よりも、その声の優しさが胸に響く。
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