酔って寝てたら保護されましたが、これが恋の始まりだなんて聞いてません〜警察官の甘やかな独占欲に包まれて〜
しかも──と奈緒は言葉を続ける。
「中島さんが言ってたんだけど……そろそろあの人、転勤かなって」

静かにテーブルの上のグラスを見つめながら、声が少しだけ掠れていた。

アルコールのせいなのか、それとも感情の波なのか。

奈緒は自分の心の揺れが、思っていたよりも大きくなっているのを感じていた。

胸の奥がチリチリと焼けるようで、喉の奥が詰まりそうになる。

目の奥に溜まってきたものが、じんわりと視界を滲ませた。

「……なんか、怖い」
ぽつりと漏れたその言葉に、花夏が顔を上げる。

「ちょっと奈緒、ここで泣かないでよ」
冗談めかした言い方だけど、花夏の目は本気だった。

奈緒は箸を置いて、顔を少し背けるようにしながら、震える声でつぶやく。

「だって……今までずっと……会いたいのに会えなかったのに……」
言葉の端々が震えて、涙がこぼれ落ちそうになる。

「奇跡みたいなことで、やっと仕事で会えるようになったのに……なのに、次は……愛妻弁当って……」

その言葉と同時に、堪えていた涙がポロリと頬を伝った。

「もう、心持たないよ……苦しくて……死にそう……」

花夏はその姿を見て、一瞬、言葉を失ったようだったが、やがて小さく息を吐いて、落ち着いた声で言った。

「……まだ、愛妻弁当って決まったわけじゃないでしょ」

奈緒が顔を上げると、花夏はまっすぐに見つめていた。

「悪い方にばかり想像しないの。確かに、不安になるのもわかるけど……」

「今の瀬戸さんが、奈緒の目の前にいる。それが事実なんだから」

その言葉に、奈緒の涙はさらに一滴、音もなく落ちた。
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