酔って寝てたら保護されましたが、これが恋の始まりだなんて聞いてません〜警察官の甘やかな独占欲に包まれて〜
「タクシー、呼びます。もうすぐ来ると思うんで、準備しておいてください」

瀬戸がそう告げると、奈緒はぷいっと顔をそらして拗ねた。

「いやぁ〜、帰りたくない。まだお巡りさんとーいたいの」

「ダメです。帰ります」

「やだぁ……」

瀬戸はそのやりとりを流しつつ、スマホでタクシーの手配を進めた。
必要最低限の対応。それ以上でも以下でもない。

すると奈緒が急に、椅子の上でばたんと身を乗り出した。

「喉かわいたー!」

「……」

再び始まる、無限ループ。

「喉かわいたー!」「ねぇ、水ー!」「お巡りさーん!」

瀬戸は深く息を吸い、静かに口を開いた。

「……160円です。払うなら買ってきますよ」

奈緒は、ぴたっと動きを止めた。
そのあと、ゆっくり財布を開きはじめる。

「わかったぁ〜……これでいい?」

おぼつかない指先で取り出されたのは、100円玉1枚と、10円玉3枚。

「……130円しかないです」

「え〜〜〜〜」

奈緒は、またごそごそと財布を探る。
時間がかかる。思ったより長い。
ようやく、もう1枚100円玉を取り出して瀬戸に差し出した。

「はい、200円」

瀬戸は無言でそれを受け取ると、手のひらから30円を取り出して奈緒に返した。

「じゃあ、ちょっと待っててください」
それだけ言い残し、交番のドアを押して外へ出る。

夜風が少しだけひんやりしていた。
目の前の自動販売機に向かって、瀬戸は無言で歩いていった。
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