酔って寝てたら保護されましたが、これが恋の始まりだなんて聞いてません〜警察官の甘やかな独占欲に包まれて〜
午後11時過ぎ、取材班も撤収し、交番内はようやく落ち着きを取り戻していた。

杉崎が湯呑みを片手に、「……しかし今日はやばかったな」とぽつりと呟く。

瀬戸は机に肘をつきながら静かに頷いた。
「本当に……水原さんに手が出るとは思わなかった」

「俺も、あそこまで荒れるとは予想してなかったっす」と杉崎が口を引き結ぶ。

その横で、川合がふぅっとため息をついた。
「まあ、現場は予測不能ってやつだな。だけど取材相手にケガさせてたら、洒落にならなかったぞ」

「……すみません」瀬戸が低く頭を下げると、

「お前のせいってわけじゃない。現場は混乱してたし、あいつを最初に抑えてたら他が暴れただろ」と川合は首を振った。

その時、奥から樋口所長が出てきた。カップを手に、沈黙を破るように言った。

「……水原さんのこと、交番としても改めて謝罪しないといかんな。対応の遅れは反省点だ」

誰もが真剣な顔で頷く。

「それと——そろそろ、異動の辞令の準備が始まる頃だな」

樋口の一言に、一瞬空気が止まったような沈黙が落ちる。

杉崎が「あー、ついにその話ですか」と小声で呟き、川合が瀬戸の方をちらりと見やる。

「お前も三年か。そろそろだな、瀬戸」

瀬戸は何も言わず、ただ静かに正面を見つめた。

その沈黙の中、川合がふと思い出したように口を開く。

「そういえば、水原さんさ。あのあともずっとジャンパー抱えてたよ。ぎゅって……誰にも渡すまいって感じだった」

瀬戸の表情がわずかに揺れる。

「それに、『ご迷惑かけるわけにはいかないので』って言ってた。責任感じてたんだな。……あの子、取材ってだけじゃないだろ」

言葉の先を濁しながらも、川合の視線は瀬戸に向けられていた。

瀬戸は何も答えなかったが、代わりにそっと机の上に置かれた、自分のハンカチを見つめた。

あの時、奈緒が握りしめていたもの。涙に濡れて返されたもの。

胸の奥に、言葉にできない何かがふつふつと膨らんでいた。
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