酔って寝てたら保護されましたが、これが恋の始まりだなんて聞いてません〜警察官の甘やかな独占欲に包まれて〜
奈緒は顔を真っ赤にしながら、グラスを掲げて「おかわりお願いします」と声を上げた。

そのとき、彼女の左手にそっと触れる指があった。

瀬戸だ。
驚いて目をやると、彼はあの夜と同じ、優しくもどこか切なげな目をしていた。

奈緒は目を細めて、「なんですか」と低くつぶやく。

瀬戸は一言、「もうだめです。飲みすぎです」と言って、そっと奈緒のグラスを取り上げた。

その代わりに、水の入ったグラスを目の前に「とん」と置く。

――既視感。

この人はいつもそう。

泣いてるときも、酔ってるときも、飲み物を目の前に「とん」と置いてくる。

そんなの、ずるいじゃない。

これじゃあ、街中のペットボトル見るたび、思い出しちゃう。

駅の自販機だって、コンビニだって、瀬戸さんの影だらけになる。

奈緒は思わず、露骨に口を尖らせて不機嫌な顔をした。

「瀬戸さん、本当意地悪ですよね」

心の声のつもりだったけれど、口に出ていた。

瀬戸は一瞬驚いたようにまばたきをしてから、ふっと笑みをこぼして「どのあたりが意地悪なんですか?」とやさしく聞く。

奈緒はもう止められなかった。

ふつふつと湧き上がる思いが言葉になって、ぽつりぽつりと零れ落ちる。

「そうやって優しく微笑みかけるのも、すぐ『大丈夫ですか』って心配してくれるのも、ペットボトルの水を開けてくれるのも、立ち上がる時に手を差し出すのも――」

「全部、警察官としてのマニュアルなのかもしれないけど、私そのたびに……心臓をナイフで刺されるような気持ちになるんです」

「もう……瀬戸さんは、私にとって凶器なんです」

言ってしまった。

口から出た瞬間、自分がとんでもないことを言ったと悟った。

奈緒は目を見開いたまま、口を手で押さえた。

その場の空気が一瞬止まる。

周囲の警察官たちは皆、固まったまま絶句している。

杉崎が「……え?」と小さく漏らし、川合は目を見開いて「マジで!?」と奈緒と瀬戸を交互に見つめる。

一人がコップを置く音が、妙に大きく響いた。

瀬戸は、驚いたように奈緒を見つめていた。

でもすぐに、その表情を静かに和らげると、目を伏せて、小さく息を吐いた。

それは、怒ってもいないし、笑ってもいない。

ただ、何かを静かに飲み込んだような、そんな表情だった。
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