酔って寝てたら保護されましたが、これが恋の始まりだなんて聞いてません〜警察官の甘やかな独占欲に包まれて〜
タクシーのテールランプが角を曲がって見えなくなったあとも、瀬戸はしばらくその方向を見ていた。

ほんの数十分だったが、やたらと濃くて、やたらと騒がしい時間だった。

「……疲れた」

ぽつりと漏れた声は、夜の空気にすぐに吸い込まれていった。

交番のドアを開けると、川合が机に頬杖をついてこちらを見ていた。

「送ったか、奥さん」

「奥さんじゃないです」

「はは、でも、いい感じだったぞ? ああいうタイプ、瀬戸には珍しくて逆に合うかもな〜」

「やめてください」

瀬戸は、椅子に座って報告書の端を指でトントンと叩いた。
書くべきことは少ない。けれど、心の中は妙にざわついていた。

――また、どこかで会うことなんて、あるのだろうか。

ふと浮かんだ考えを、すぐに打ち消す。

関係ない。ただの酔っ払い。交番に転がり込んできた、一度きりの人。

そう自分に言い聞かせるように、瀬戸は書類に手を伸ばした。

東京の夜は、今日も変わらず、静かに更けていく。
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