酔って寝てたら保護されましたが、これが恋の始まりだなんて聞いてません〜警察官の甘やかな独占欲に包まれて〜
デート当日。
天気は快晴。

春らしい陽射しに包まれて、新宿の街はいつもより少しだけやさしく見えた。

奈緒は約束の時間より十分早く、「グリル灯(あかり)」という洋食店の前に到着していた。

駅から少し離れた静かな路地裏にある、老舗の洋食屋。

レンガ造りの壁と、木製のドアがレトロで落ち着いた雰囲気を漂わせていた。

奈緒は鏡のようなガラスに映る自分の姿をチェックしながら、そわそわとスマホを見たり閉じたりしていた。

「少し遅れます」のメッセージが届いたのは数分前。

心臓が、さっきからずっと落ち着かない。

緊張と期待と不安が混ざって、足元からふわふわと浮いているような感覚だった。

数分後。

角を曲がって現れた瀬戸の姿に、奈緒の呼吸が一瞬止まった。

私服の瀬戸は、いつもよりラフで、でも清潔感のあるシャツにジャケットを羽織っていた。

髪は少しだけ無造作で、夜勤明けの疲れもほんのり残っているように見えたけれど、その笑顔はちゃんと優しかった。

「お待たせしました」

そう言って近づいてきた瀬戸に、奈緒はうまく笑顔を返せなかった。

口角は上がっているのに、緊張で喉がからからに乾いていた。

「思ったより、ちゃんと来てくれてますね」

瀬戸はくすっと笑って、奈緒の顔を覗き込むように言った。

「もう少し拗ねて、『昨日のこと酔って忘れてました』って言うのかと思ってたのに」

意地悪。
そう思った瞬間、心臓が跳ねた。

その言葉の裏に、ちゃんと昨日のことが心に残っていたという証がある。

それだけで、胸がじんと熱くなった。

「忘れるわけないじゃないですか」

奈緒は、思わずそう返してしまって、自分でも驚いた。

瀬戸は少し目を細めて、嬉しそうに笑った。
「じゃあ、入りますか」

奈緒は小さくうなずいて、瀬戸のあとに続いて「グリル灯」のドアを開けた。
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