酔って寝てたら保護されましたが、これが恋の始まりだなんて聞いてません〜警察官の甘やかな独占欲に包まれて〜
店の中に一歩足を踏み入れると、煮込みソースの香ばしい匂いと木のぬくもりがふんわりと迎えてくれた。

落ち着いた照明に、深い茶色の木製テーブル。
窓際の席には白いクロスがかかり、どこか懐かしい雰囲気が漂っている。

「こちらのお席、どうぞ」と店員が案内すると、瀬戸は奈緒に軽く目配せして、さりげなく椅子を引いてくれた。

「どうぞ、お姫様」

冗談めいた口ぶりに、奈緒は思わず笑ってしまう。
けれど、そのあとすぐに瀬戸がにこっと笑った顔に、胸の奥が少し熱くなった。

優しいけど、媚びるような笑顔じゃない。
どこか照れたような、でも本当に嬉しそうな表情。

そんなふうに笑ってくれるから、不思議と緊張がほどけていく。
ガチガチに強ばっていた肩が、少しずつ緩んでいくのを自分でも感じた。

「コロッケが美味しいらしいですよ」
メニューを開いた瀬戸が、少し声を落として囁くように言った。

「そうなんですか?」

「昨日、松崎に聞きました。『グリル灯のコロッケは無敵』だそうです」

奈緒がくすっと笑うと、瀬戸もまた小さく笑って、目が合う。
そのたびに、胸の奥で何かがやわらかくほどけていくような気がした。

会話はまだぎこちないのに、空気は優しい。
まるで、そこに甘いシロップが少しずつ溶け込んでいくような静けさだった。
< 162 / 204 >

この作品をシェア

pagetop