酔って寝てたら保護されましたが、これが恋の始まりだなんて聞いてません〜警察官の甘やかな独占欲に包まれて〜
電車はほどなくホームに滑り込んできた。

乗客はまばらで、ふたりは自然と並んでドア付近のロングシートに腰を下ろす。

会話はほとんどなかったけれど、沈黙が気まずいとは思わなかった。

窓の外を流れていく夜景を眺めながら、奈緒は隣にいる瀬戸の気配を感じていた。

少しだけ袖が触れている。
そのささやかな距離が、なぜだかたまらなく愛おしかった。

やがてアナウンスが流れ、ふたりの最寄り駅が近づいてくる。

(もうすぐ、着いちゃう……)

ほんの短い時間だったはずなのに、奈緒の中にはいくつもの想いが生まれていて、言葉にならないまま胸の奥で膨らんでいた。

「……降りるよ」

瀬戸の声に、奈緒は小さくうなずいた。

改札を出ると、夜の空気がひんやりと頬を撫でた。

駅前の通りも静まり返っていて、コンビニの明かりだけがぽつんと灯っている。

ふたりは、同じ方向へゆっくりと歩き出した。

しばらく歩いたところで、瀬戸がふと立ち止まる。

「こっちがうち。君は……たしか、あと二つ先の交差点を左?」

奈緒は驚いたように顔を上げた。

「なんで知ってるんですか」

「……このあたり、よく勤務明けにランニングしてるから。偶然見かけたことがあるだけ」

「見かけたなら、声かけてくれてもよかったのに」

「いや……朝、ものすごく眠そうな顔してたから」

「……やめてください」

奈緒は思わず苦笑して、そっぽを向いた。

瀬戸も柔らかく笑いながら、そっと言った。

「……じゃあ、ここで」

名残惜しさを隠すように、瀬戸は手を上げて背を向ける。

その背中を、奈緒は黙って見つめた。

心の奥に、言いたい言葉がたくさんあった。

でもそれを口に出すには、今夜はあまりに静かすぎた。

「……おやすみなさい」

小さくつぶやいたその声は、夜の空にふわりと溶けていった。
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