酔って寝てたら保護されましたが、これが恋の始まりだなんて聞いてません〜警察官の甘やかな独占欲に包まれて〜
昼休憩が終わり、社内の時計が13時を指した頃。
奈緒は自分のデスクで、小さなため息をひとつついた。

取材ノート、ICレコーダー、名刺、そして交通安全に関する過去記事のコピー。
机の上に並べて、ひとつひとつ、手で確認していく。

(よし、大丈夫。準備は万全……の、はず)

それでも、胸の奥が妙にざわついて落ち着かない。

気になって、スマホのカレンダーを何度も見返す。
「4月21日(火)14:00 新宿東口交番」
それは、間違いようのない今日の予定。

(……やっぱり、東口、だよね)

あの日の記憶が、またふわりと浮かんでくる。
ふらふら歩いて、座り込んで、起こされて。
交番の椅子でゆらゆらして、水を買ってもらって……。

(いやだ、ほんとやめて……!)

思わず頬に手を当てる。
熱を帯びているのがわかる。きっと今、変な顔してる。

(でもたぶん、違う交番だった。……たぶん、ね)

そう自分に言い聞かせながら、奈緒はバッグに取材道具をしまった。
オフィスの窓からは、やや強い日差しと、少し冷たい春風が入り込んでいる。

(たとえ、もし……同じ交番でも。
あの人がいたとしても。
私は、記者。ちゃんと話を聞きに来ただけ)

奈緒は深く息を吸って、立ち上がる。

胸の内では、緊張と不安がごちゃまぜになって渦巻いているけれど、顔にはなんとか仕事モードの表情を貼りつけた。

時計は13時40分を指していた。

「……行こう」

バッグを肩にかけて、オフィスを出る。
ドアの閉まる音が、少しだけ大きく感じられた。

目的地は――新宿東口交番。
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