酔って寝てたら保護されましたが、これが恋の始まりだなんて聞いてません〜警察官の甘やかな独占欲に包まれて〜
ふと、窓の外に目をやったときだった。

制服を着た二人の警察官が、交番の前の歩道をこちらに向かって歩いてくる。
太陽の光が、その背中を斜めから照らしていた。

(あれ……?)

奈緒の背中に、じわりと汗が滲んだ。
直感だった。
頭より先に、体の奥がざわつく。

(なんか……やばい……)

距離が近づくにつれ、そのうちのひとり――長身で、帽子をわずかに傾けてかぶった警察官の横顔が、ちらりと見えた。

(え、ええ……?)

記憶の中の断片が、急速に目の前の映像と重なっていく。
酔っていたはずのあの夜、どこかに焼きついてしまった、無表情で無愛想な、でもやけに整った横顔。

(えっ、まって、やっぱり、あの人……?)

心臓が早鐘を打ち出す。
椅子に座っているはずなのに、なぜか膝が震えるような感覚。

(逃げたい、って体が言ってる……なにこれ)

交番のドアが開いた。

「ただいま戻りました」

静かな声が響いた。
聞き覚えがあるような、低くて落ち着いた声だった。

「お疲れさまです」
交番内の数人が、いつもの調子で返す。

(やばい、やばいかも、やっぱり……)

どこかで「ちがう」と否定してほしかった自分の期待を、現実がゆっくり塗りつぶしていく。

その瞬間――

「川合さん、瀬戸さん」

先ほど対応してくれた杉崎が、振り返って声をかけた。

「『東京北都新聞』の水原さんがいらっしゃってます」

名前を呼ばれた警察官――「瀬戸」という音が耳に入ったとき、奈緒の心は答え合わせの最後の一手を突きつけられたようだった。

(やっぱり……!)

息を呑む間もなく、現実が追いついてきた。
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