酔って寝てたら保護されましたが、これが恋の始まりだなんて聞いてません〜警察官の甘やかな独占欲に包まれて〜
「防犯啓発については、どのような取り組みをされていますか?」
奈緒は問いを重ねる。
もう少し深掘りしないと記事にならない。
そう思いながらも、声の出し方がどこか不自然だった。
「防犯啓発は駅周辺や商業施設で定期的にキャンペーンをしています。チラシ配布の他に、最近はSNSでの情報発信も行っています。対象は高齢者だけでなく、若年層にも注意喚起できるように」
瀬戸は資料に目を落としながら話す。
奈緒の方は一度も見ない。
それが逆に気になった。
(仕事として当然なんだけど……)
(やっぱり、あの日のこと、嫌な記憶だったのかな)
ノートにメモを取りながら、ペン先がわずかに震える。
まっすぐな線を引いたつもりが、妙にゆがんだ。
ふと視界の端で、瀬戸が資料の端を指先でトントンと揃える仕草が見えた。
細く長い指。無駄のない所作。
(……その手で、水、渡してくれたんだよなぁ)
脳裏に、無言でキャップを開けてくれたときの表情が蘇る。
(ダメダメ。思い出してる場合じゃない。集中して)
「最近、強盗事件の防止策として、地域との連携も意識されていると聞いたんですが――」
なんとか話を戻そうと、奈緒はもう一つ質問を投げる。
しかし、その瞬間、瀬戸がほんの少しだけ眉を上げて、初めて奈緒の目を見た。
それだけで心臓が跳ねた。
(ちゃんと目、合うんだ……)
「はい。町会や商店街の方と情報を共有しながら、重点的に巡回しています。特に深夜帯は……」
声は落ち着いていた。
けれど、奈緒の思考は、どこかにふわふわと浮いていく。
筆記用具を持った手に、さっきから少しずつ力が入らなくなっていた。
(この人、私がバカみたいな酔い方したの、絶対覚えてる……)
(でも、バカにしたような顔もしない。そっけないだけで、怒ってもない……)
そのことが、余計に苦しい。
むしろ、記憶に残っていないような態度。
もしかしたら、相手にとってはただの一晩の面倒な出来事。
(……でも、私は、あの夜のことを、ずっと考えてたのに)
まるで、自分だけが空回りしている気がして、胸の奥がチクリとした。
「以上が、現場としての取り組みです。資料として必要なら、後ほどコピーを渡します」
「……あ、はい。ありがとうございます」
返事が一瞬遅れた。
いけない、仕事なんだから。
そう思って目を上げると、瀬戸はすでに目を逸らしていた。
無表情の仮面は、相変わらずぴたりと顔に貼り付いている。
(あの夜、あんなに表情豊かに見えたのは、気のせいだったのかな……)
仕事の時間が進むごとに、記者としての自分と、女としての自分の境界が、また少し曖昧になっていくのを奈緒は感じていた。
奈緒は問いを重ねる。
もう少し深掘りしないと記事にならない。
そう思いながらも、声の出し方がどこか不自然だった。
「防犯啓発は駅周辺や商業施設で定期的にキャンペーンをしています。チラシ配布の他に、最近はSNSでの情報発信も行っています。対象は高齢者だけでなく、若年層にも注意喚起できるように」
瀬戸は資料に目を落としながら話す。
奈緒の方は一度も見ない。
それが逆に気になった。
(仕事として当然なんだけど……)
(やっぱり、あの日のこと、嫌な記憶だったのかな)
ノートにメモを取りながら、ペン先がわずかに震える。
まっすぐな線を引いたつもりが、妙にゆがんだ。
ふと視界の端で、瀬戸が資料の端を指先でトントンと揃える仕草が見えた。
細く長い指。無駄のない所作。
(……その手で、水、渡してくれたんだよなぁ)
脳裏に、無言でキャップを開けてくれたときの表情が蘇る。
(ダメダメ。思い出してる場合じゃない。集中して)
「最近、強盗事件の防止策として、地域との連携も意識されていると聞いたんですが――」
なんとか話を戻そうと、奈緒はもう一つ質問を投げる。
しかし、その瞬間、瀬戸がほんの少しだけ眉を上げて、初めて奈緒の目を見た。
それだけで心臓が跳ねた。
(ちゃんと目、合うんだ……)
「はい。町会や商店街の方と情報を共有しながら、重点的に巡回しています。特に深夜帯は……」
声は落ち着いていた。
けれど、奈緒の思考は、どこかにふわふわと浮いていく。
筆記用具を持った手に、さっきから少しずつ力が入らなくなっていた。
(この人、私がバカみたいな酔い方したの、絶対覚えてる……)
(でも、バカにしたような顔もしない。そっけないだけで、怒ってもない……)
そのことが、余計に苦しい。
むしろ、記憶に残っていないような態度。
もしかしたら、相手にとってはただの一晩の面倒な出来事。
(……でも、私は、あの夜のことを、ずっと考えてたのに)
まるで、自分だけが空回りしている気がして、胸の奥がチクリとした。
「以上が、現場としての取り組みです。資料として必要なら、後ほどコピーを渡します」
「……あ、はい。ありがとうございます」
返事が一瞬遅れた。
いけない、仕事なんだから。
そう思って目を上げると、瀬戸はすでに目を逸らしていた。
無表情の仮面は、相変わらずぴたりと顔に貼り付いている。
(あの夜、あんなに表情豊かに見えたのは、気のせいだったのかな……)
仕事の時間が進むごとに、記者としての自分と、女としての自分の境界が、また少し曖昧になっていくのを奈緒は感じていた。