酔って寝てたら保護されましたが、これが恋の始まりだなんて聞いてません〜警察官の甘やかな独占欲に包まれて〜
「本日はありがとうございました」

奈緒は資料を胸に抱え、丁寧に頭を下げた。
瀬戸は座ったまま軽く会釈で応える。

そのまま奈緒は、もらった資料を内容ごとに分けて、手持ちのクリアファイルへ収めていく。
表紙をそろえ、角を整え、手元に集中することで、ようやく自分の心拍を落ち着けようとしていた。

その時だった。

「そういえば最近、この辺りも酔って寝る人が多くて。骨が折れますね」

瀬戸が、わざとらしく笑いながらぼそりと呟いた。

奈緒の手が一瞬止まった。
整えかけていた資料がずれて、ファイルの端が指先から滑り落ちる。

(……いま、わざと?)

落ち着きかけていた心臓が、また派手に跳ねた。
顔から火が出そうで、すぐには言葉が出てこない。

「……意地悪だ、この人」

心の中でそう毒づいたものの、表情には出せず、ぐっと唇を結ぶ。

そして奈緒は、体を起こし、きちんと姿勢を正すと、深く頭を下げた。

「先日は、大変申し訳ございませんでした」

真面目に、誠実に。けじめのように謝る奈緒の声は、ほんの少しだけ震えていた。

瀬戸はそれに、何も言わず、ただ机の上のペットボトルに視線を落とした。
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