酔って寝てたら保護されましたが、これが恋の始まりだなんて聞いてません〜警察官の甘やかな独占欲に包まれて〜
湯船に浸かる余裕もなく、シャワーで汗と疲れを流した。
メイクも落として、髪をざっと乾かし、部屋着に着替える。

ベッドに潜り込むと、冷えたシーツが肌に心地よかった。
天井を見上げながら、スマホを手に取る。

──特に通知もなし。

「……そりゃそうだよね。別に期待してないし」

誰かから連絡が来るはずもない。
けれど、ふとした拍子に「交番」「新宿東口」などのワードで検索をかけていた自分に気づき、スマホを布団の上に置く。

「なにやってんだろ、私……」

名刺交換しただけ。
公務での対応。
ちょっと意地悪で、ちょっと優しかっただけの警察官。

でも、思い出す場面のほとんどに彼がいた。

あの夜、手を引いて起こしてくれたときの、あの手のぬくもり。
「繋ぎません」と言われて、むくれた自分。
水を買ってきてくれたときの、無言の優しさ。
そして、あの時は知らなかった名前を、今でははっきりと呼べること。

「瀬戸さん……」

声に出してつぶやいてみると、なんとなく体温が上がる気がした。

「……ダメだってば。ないない。ありえない」

頬に枕を押し付けながら否定する。
記者と取材相手。
仕事での関係。それ以上はない。

でも、もし次に会う機会があったら。
もうちょっと、ちゃんとした自分でいられたら──

そんな想像をしてしまうこと自体が、すでに答えを出してしまっているようで、奈緒は小さく身を丸めた。

「ほんと、バカ……」

目を閉じると、ほんの一瞬だけ、あの夜の優しい声が耳に響いた。
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