酔って寝てたら保護されましたが、これが恋の始まりだなんて聞いてません〜警察官の甘やかな独占欲に包まれて〜
取材から戻った翌日、奈緒は花夏と共に編集部の片隅にある資料室でパソコンを開いた。

机の上には、埼玉での取材メモと録音したICレコーダー、地元警察からもらった資料が積まれている。

「じゃあ、まず構成から決めようか」
花夏がコーヒーを片手に言った。

「うん。最初に事件の概要を簡潔に入れて、その後に今回の地域連携の試みを紹介して……」
奈緒はノートを開きながら、ペンを走らせた。

「住民の声は後半に入れて温度感出すといいかもね」
「そうだね。“声”があるだけでリアルになるし、説得力も出る」

初日は構成の草案作りで終わった。

翌日から、二人は担当ページのデザイン担当者と相談しながら、レイアウト案を練った。

「ここの見出し、もう少しインパクトあってもよくない?」
「うん、“地域がつながる安心感”とかどう?」

「いいね、それ」
花夏がすぐにキーボードを叩き直す。

三日目には、本文の初稿を奈緒が書き上げた。
「花夏、ちょっと見てもらってもいい?」
「もちろん。チェックするね」

記事を読む花夏は、ときどき眉をひそめて止まり、赤ペンを走らせた。

「ここの主語が曖昧。あと、この表現、ちょっと伝わりにくいかも」
「うん……ありがと」

奈緒は修正点を受け止め、すぐに手を動かす。
翌日は二人で細かな文言の調整。

「“無差別事件をきっかけに”って書くと怖すぎないかな。“きっかけに地域の防犯意識が高まった”でやわらげよう」

「そうだね、読み手が怖がりすぎないようにしたい」

五日目には、警察側にも事実確認のため記事案を送付し、対応に追われた。

「ここ、“警察官が定期的に町内を巡回”ってあるけど、“見回り活動を週に数回実施”に変えてくれって」
「了解、表現整える」

六日目、花夏がグラフや図解を組み合わせたサイド記事を書き上げた。

「町内会の参加率の推移、ビジュアルにしたらわかりやすいよね」
「すごい……花夏、まとめるのうまい」
「えへへ、でしょ?」

そして七日目、全体の最終チェックと見出し調整、誤字脱字の確認を終えると、
「完成……だね」
奈緒が静かに息を吐いた。

花夏が笑って手を伸ばし、ハイタッチを求めた。

「おつかれ、奈緒。いい記事になったよ」
「うん。……読んだ人に、ちょっとでも考えてもらえたらいいな」

奈緒の目に、記者としての責任と誇りが宿っていた。
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