酔って寝てたら保護されましたが、これが恋の始まりだなんて聞いてません〜警察官の甘やかな独占欲に包まれて〜
夕方、仕事を終えた奈緒と花夏は、会社のそばにある小さな居酒屋「炭焼 鶏政」の暖簾をくぐった。

提灯の灯りがほのかに揺れ、店内には香ばしい鶏の匂いが立ちこめている。

「とりあえず、生!」
花夏が元気に声をあげ、奈緒も「うん、今日は飲む」と笑ってうなずいた。

カウンター席に腰を下ろすと、店主が「お、今日は珍しく二人ともいい顔してるね」と声をかけてきた。

「やっと仕上がったんです。例の防犯記事」と奈緒が言うと、店主は「お疲れさま」とビールを差し出してくれた。

ジョッキを合わせて、「かんぱーい」
ごくごくと喉を鳴らして飲んだあと、花夏が「っくー、生き返る」と幸せそうに言った。

「狩野さんに褒められるなんて、ちょっと信じられないよね」
「うん……でも、ほんとに嬉しかった」

鶏皮ポン酢とささみ刺し、つくねに砂肝。

頼んだ料理が次々と並び、2人は箸を進めながら、仕事の話や他愛のない話で盛り上がった。

ふと、奈緒が言った。
「……ちゃんと、伝わったのかな。あの記事で、誰かの防犯意識とか、町との関わり方とか」

花夏は少しだけ驚いた顔をして、でもすぐに真剣な表情で頷いた。

「うん、伝わったと思うよ。あたしは、あんたの記事読んで、ちゃんと歩きながら後ろ振り返るようになったもん」

奈緒はくすっと笑った。
「……なんか、それだけで少し報われるね」

店の奥では、常連たちが静かに酒を飲み交わしている。
奈緒はジョッキを手に取り、ぽつりとつぶやいた。

「よし、次も頑張ろう」
「うん。ちゃんと、伝えるために」

2人のジョッキが、再び澄んだ音を立ててぶつかった。
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