酔って寝てたら保護されましたが、これが恋の始まりだなんて聞いてません〜警察官の甘やかな独占欲に包まれて〜
奈緒の一日は、朝のメールチェックから始まった。
警察庁の広報資料、新宿署の公開情報、自治体の犯罪発生件数などを確認する。

デスクに置いたままの社用携帯が、着信と通知でひっきりなしに震えている。

「本日14時、新宿署広報担当・中島さんと面会確定」
スケジュールを手帳に書き込みながら、奈緒はコーヒーを一口啜った。

机の上には、取材先候補のリストや、連絡済みのメモ、簡単な企画概要書が広がっている。

記事一本のために、やるべきことは山ほどあった。

午前10時、奈緒は会社を出て外回りに出る。

この日は警視庁本部と区役所の防犯担当課、そして地域のボランティア団体にも足を運ぶ予定だった。

名刺入れ、録音機、取材ノート、そして地図入りのクリアファイルを鞄に詰めて、地下鉄に乗り込む。

新宿署では、広報の中島と1時間の面会。
取材意図を説明し、協力を仰ぐと、中島は慎重に頷いた。

「市民に届く形で防犯意識を高めたい、という意図には共感できます」

午後は地域の自主防犯パトロールのリーダーと会い、活動内容のヒアリング。

夜間の見回りルート、メンバーの構成、住民からの声などを聞き取りながらノートを埋めていく。

会社に戻ったのは19時過ぎ。
オフィスはすでに照明が落ち始めていて、奈緒のデスクだけが明るく光っていた。

冷めたコーヒーを一口飲んで、今日のメモをパソコンに打ち込む。

取材と連絡と資料整理に追われ、自席にいる時間よりも外にいる時間のほうが圧倒的に長い。

けれど、確かに前に進んでいるという実感があった。
奈緒は疲労と達成感が混ざる中、静かに肩を回して背もたれに体を預けた。
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