酔って寝てたら保護されましたが、これが恋の始まりだなんて聞いてません〜警察官の甘やかな独占欲に包まれて〜
交番の掲示板には、新聞記事が一枚、丁寧にピンで留められていた。

「防犯の“最前線”、見えてますか?」
見出しの下にある記者名は、水原奈緒。

瀬戸は、ふとした空き時間にその前に立ち、無意識のうちに視線を留めていた。
内容はもう何度も読んでいる。

記事の隅に載った署名と、柔らかい文章の筆致に、どこか彼女らしさを感じる。

背後から足音が近づいたかと思うと、川合が言った。
「忘れられないのか?」

瀬戸は一瞬ハッとして、気まずそうに顔を背けた。
「なんですか。ただ見てただけですよ」

川合はふっと笑い、掲示板の記事を指差した。
「記事睨んでたってしょうがないだろ。そこに彼女はいない」

瀬戸は一拍置いて、小さくため息を吐く。
「なんでもないですし。別に、なんとも思ってません」

「そうか?」
川合は両手をポケットに突っ込みながら、肩をすくめた。

「俺は人生の先輩として思う。お前たちは運命だ。早く結婚しろ」

瀬戸は、呆れたように眉を上げて笑った。
「なんでそういう話になるんですか」

川合は何も言わず、ニヤニヤしたまま去っていく。

瀬戸は一人、再び掲示板の記事に目をやった。
あれからしばらく会っていない。

仕事で会っただけ、そう自分に言い聞かせても、なぜか記事の中の言葉に、彼女の声が重なる気がした。

思い出すのは、記者として真剣に質問をぶつけてきたあの表情。
少し酒の失敗を思い出して赤面していた、あの姿。

別になんでもないはずなのに。
ほんの少し、いや、確実に。
気になっている自分に、瀬戸は気づいていた。
< 61 / 204 >

この作品をシェア

pagetop