酔って寝てたら保護されましたが、これが恋の始まりだなんて聞いてません〜警察官の甘やかな独占欲に包まれて〜
奈緒は連日、分刻みのスケジュールをこなしていた。
朝は警視庁広報課との打ち合わせ、昼には都内の交番で現場取材、夕方には被害者遺族へのインタビュー。

夜に会社へ戻ると、録音データの文字起こしと記事構成。

誰かと会話をしていても、頭の片隅では常に「今、この瞬間、あの人はどこで、誰と、どんな風に働いているのか」と思ってしまう自分がいた。

新宿駅近くの交番を通りかかるたび、無意識に視線を向けてしまう。
けれど彼の姿を見ることはなく、胸の奥に小さな痛みが残る。

ある夜、奈緒は自宅でメールボックスを整理していた。
取材でやりとりした警察関係の名刺やアドレス帳が並ぶ中、ふと彼の名刺に目が留まった。

「新宿東口交番 巡査部長 瀬戸拓真」

あの時、名刺交換をした手のぬくもりが、急にリアルに蘇る。

でも、携帯の連絡先リストにも、仕事の取材記録にも、彼の番号は登録していない。

ただの取材対象だったはずの人に、ここまで心を占められる自分が苦しくなる。

その夜、夢に瀬戸が出てきた。
「お元気ですか」と声をかけた奈緒に、彼は交番の制服姿で「もう会わない方がいい」と静かに言った。

目が覚めた時、奈緒の目には涙がにじんでいた。

こんなにも、会いたいのに。
こんなにも、声が聞きたいのに。

その感情を飲み込んで、奈緒は今日も仕事に向かった。
ひとつ、またひとつ、取材の予定が入るカレンダーの予定表が、瀬戸との距離をさらに遠ざけていく気がした。
< 67 / 204 >

この作品をシェア

pagetop