酔って寝てたら保護されましたが、これが恋の始まりだなんて聞いてません〜警察官の甘やかな独占欲に包まれて〜
会社の休憩スペース。
天井の蛍光灯が白く光り、コーヒーの香りがほんのり漂う中、奈緒は椅子に深く腰掛けて、花夏に奢ってもらった缶コーヒーのプルタブを開けた。

「お疲れ様、奈緒」
隣に腰を下ろした花夏が、小さく笑う。

「連載ってやっぱり大変だよね。取材も一人で回ってるんでしょ?」

奈緒は缶を唇に当てて一口。

冷たい液体が喉を通っていくのに反して、胸の内はじんわり熱を帯びていた。

「うん。まあ……やるしかないけどね」

「社会部、最近空き家問題とか違法建築の特集でもう手一杯で、みんな手が開かないもんね」

花夏はため息まじりに言ったあと、奈緒の顔をちらりと覗き込んだ。

「ねぇ、新宿東口交番とはコンタクト取ってないの? せっかく良い記事書けたのに、続きがあってもいいじゃない」

奈緒はその言葉にわずかに目を伏せた。
「……取ってない」

「なんでよ。無理やりにでもあなたの裁量で入れちゃえば? 記事の流れ的にも無理なくつなげられるじゃん」

奈緒は小さく笑った。
「そんなの、無理だよ。だって……あったとしても、それは仕事のつながりでしかないし」

言い終えた瞬間、胸に重く沈んだ気持ちが広がる。

“仕事のつながり”。

それは本当に、ただそれだけだったのか。

それ以上を望んではいけないと、自分に言い聞かせてきたのに。

彼の声も、笑顔も、思い出せるほど近くにあるのに。
手を伸ばしても、届く場所にはもういない。

缶コーヒーをもう一口飲む。
冷たいはずなのに、喉の奥が苦くて、胸の奥がやけに切なかった。
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