酔って寝てたら保護されましたが、これが恋の始まりだなんて聞いてません〜警察官の甘やかな独占欲に包まれて〜
奈緒は会議室を出て、自席に戻ると、目の前のモニターがいつも以上に遠く感じた。

プレゼンか――。

頭の中で、構想を練る。

ただの交番密着では意味がない。
ただの美談や苦労話では、読者の心は動かない。

「市民と警察官との距離」
「防犯の最前線にある“日常”のリアル」
「信頼される警察の姿をどう可視化するか」

浮かんでは消えていくキーワードを、指で机に書くようにしてなぞった。

自分だからこそ書けるもの。
以前の取材で瀬戸さんの姿を見て、感じたこと。
あの夜、路上で出会ったときに見せたあの真っ直ぐな目。

記事の核心に据えるなら、「人間味」しかない。
制服の内側にある、警察官の“顔”を見せることができたら。
それは、記者としての私にしかできないことだと思った。

だけど――。

「何よりこのプレゼンを成功させなければ。瀬戸さんとの面会はない。」

頭では分かっている。
これは仕事だ。
ただの職務だ。
それでも、心のどこかがざわつく。

よこしまな気持ちだって、分かってる。
けど、このまま不完全燃焼で終わってしまったら、私、きっと一生苦しいまま。

思い出すのは、雪がちらついた日の帰り道。
街を歩くカップルたちの中で、一人きりだった自分。

それでも、もう一度会いたいと思ってしまう。
あの人の、真剣なまなざしを。

だから書く。伝える。
この仕事を、チャンスを、自分のすべてで勝ち取る。
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