酔って寝てたら保護されましたが、これが恋の始まりだなんて聞いてません〜警察官の甘やかな独占欲に包まれて〜

静かに、決意は燃える

奈緒は朝一番の電車に揺られながら、スマホでメモアプリを開いた。

前日に思いついたプレゼンの構成案を見返し、何度も文言を練り直す。

「防犯の最前線にある“人間の顔”を描く」——
それが自分のテーマだと、胸に言い聞かせるように指を動かす。

取材先へ向かう足取りは軽くない。

毎日のように違法サイト詐欺や痴漢被害の証言を聞きに走り、
自社に戻っては記事を書き、編集会議に出て、
気づけば時計の針はいつも21時を回っていた。

それでも、帰宅してシャワーを浴びたあと、パソコンに向かってしまう。

企画書の冒頭文、読み手の心を一瞬で掴むような言葉。

何度も書いては消して、気づけば夜が明ける直前だったこともある。

「私、なんでこんなに必死になってるんだろう」
ある夜、キーボードに額をつけながらふと、心の声が漏れた。

仕事に全力なのは当たり前。
記者として当然のこと。
けれど、それだけじゃない。

あの人に、もう一度会えるかもしれない。
その小さな期待が、どうしようもなく奈緒の心を突き動かしていた。

でも、もし会えたとして、あの人が何も感じてなかったら?
仕事としてしか見てなかったら?

期待すればするほど、胸の奥がざわついて落ち着かなくなる。
不安と希望が、まるで天秤のように揺れ続けていた。

「でも、やるしかない」

何度そう自分に言い聞かせたかわからない。
記者として、女として、人として——
今の自分を証明するために。

奈緒はまた、疲れた目をこすりながらキーボードを叩いた。
背筋を伸ばして、画面の向こうにある未来を見つめるように。
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