酔って寝てたら保護されましたが、これが恋の始まりだなんて聞いてません〜警察官の甘やかな独占欲に包まれて〜
交番のドアが静かに開く。
深夜の街とは違い、ここは静かで、空気がひんやりとしていた。

「ここ、座ってください」
瀬戸が指差したのは、備え付けの丸椅子。

「ありがと〜」
奈緒はふらふらと腰を下ろすが、椅子の上でも身体はゆらゆらと揺れていた。
座っていても落ち着きがない。
今にも倒れそうな頼りなさに、瀬戸はそっとため息をつく。

「お名前、言えますか?」
「みず……みず……」
「水?」

「水原、奈緒〜」
ゆるんだ口調でそう答えて、にこにこと笑う。
妙に素直すぎる。

「生年月日は?」
「平成……えっと、わかんない、書いてあるから見て〜」
そう言って、カバンをごそごそと探り始める。

がさがさ、がさがさ――

「……あっ」

次の瞬間。
カバンが手元からすべり落ち、机の上にひっくり返る。

化粧ポーチ、名刺入れ、スマホ、ペン、メモ帳、財布、小さなお菓子――
いろんなものが、床にばらばらと散らばった。

「……はぁ」

瀬戸は、ほんのわずかに眉をひそめて、無言でしゃがみこむ。
一つひとつ、落ちたものを拾い集める。

その様子を、奈緒は椅子の上からにこにこと見ていた。
まるで、映画でも眺めるみたいに。

「おまわりさん、優し〜い」
また、言う。

瀬戸は返事をしなかった。
というより、返事が出なかった。

ただ、黙って財布を拾い上げ、免許証を確認する。
水原奈緒。
間違いない。

──こういうのも、仕事のうち。
……たぶん。
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