酔って寝てたら保護されましたが、これが恋の始まりだなんて聞いてません〜警察官の甘やかな独占欲に包まれて〜
サイバー課の応接室。

通されたのは、淡いグレーの壁に資料が整然と並ぶ、無機質ながらも落ち着いた空間だった。

扉の向こうから現れたのは、スーツ姿で眼鏡をかけた細身の男性。

「星崎です。本日はよろしくお願いします」
穏やかな口調だが、言葉の端々に警察官らしい緊張感がにじむ。

「水原奈緒と申します。こちらこそ、本日はお時間をいただきありがとうございます」

奈緒は丁寧に一礼した。
頭が少しふらついたが、悟られないように静かに椅子へ腰を下ろす。

録音機を机に置き、ノートを開き、ボールペンを握り直す。

星崎は、闇バイトの手口や若年層の被害実態について、淡々と、しかし丁寧に説明していった。

SNSでのリクルート、報酬の提示、心理的な揺さぶり──巧妙な手口が次々と語られる。

だが、奈緒の意識は徐々に霞みがちだった。

熱のせいで、言葉が耳に届いても意味が脳に届かない瞬間があった。

「……ですから、連携しているプラットフォーム側の対応が鍵になるわけです」

「はい……その、えっと、連携というのは具体的には──」

言葉が詰まり、先ほど聞かれたばかりの説明を、また問うてしまった。

星崎のまなざしが、ほんの一瞬だけ動く。
疑問とも困惑ともつかぬ表情で、奈緒をじっと見た。

「……すみません、同じことをお聞きしてしまいましたか?」

「いえ、大丈夫ですよ。少し説明が早かったかもしれませんね」

星崎は柔らかく答えたが、その目はどこか探るように鋭かった。

奈緒は机の下で、スカートの端から腕を伸ばし、自分の手首を強くつねった。

痛みがじん、と広がる。
その刺激に、ぼんやりとしていた意識が少しだけ戻ってくる。

(しっかりしなきゃ……こんな大事な取材で、何やってるの)

自分を叱咤しながら、ボールペンを握る手にもう一度力を込めた。
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