魔法使い時々王子
翌日、廊下を歩いていると、ふと視線を感じた。

すれ違いざまに、数人の婦人たちが小さく声を潜める。
その囁きが、自分に向けられているのだと、アリスには分かった。

けれど、足は止めなかった。
何も聞こえなかったふりをして、ただ前を向いて通り過ぎる。

横を歩くハンナは、落ち着かない様子で何度も視線を巡らせていた。

「……」

何か言いたげだったが、結局、言葉にはしなかった。

アウルム図書館に着くと、アリスは迷わず奥へ進み、いつもの席へ向かう。
そこには、変わらず本を読んでいるリトの姿があった。

アリスは何も言わず、彼の隣にどかりと腰を下ろした。

リトは一瞬だけ視線を落とし、それから何事もなかったかのように、本のページをめくる。

「……やな日って顔してる」

リトの言葉に、アリスは一瞬だけ瞬きをした。

「別に…」

そう強がって答えると、視線を逸らす。
リトはそれ以上何も言わず、静かに本のページをめくった。

しばらくして――
ふわり、と空気が揺れた。

アリスの足元で、淡い光が弾ける。
小さな紙片が、まるで生き物のようにくるくると舞い始めた。

「……なに、これ?」

紙片は鳥の形に折り重なり、次々と姿を変える。
一羽、二羽、三羽。
光をまとった紙鳥たちが、アリスの周りを楽しげに飛び回った。

思わず、アリスの口元が緩む。

「ふふ……」

それを見て、リトはちらりと視線を向けただけで、何も言わない。

アリスはその様子に気づいて、はっとした。

「……もしかして、これ……」

リトは本を閉じることなく、ぽつりと答えた。

「気が紛れればいいと思っただけ」

アリスは紙鳥を見つめながら、小さく息を吐いた。

「……やっぱり、魔法使いなのね」

その言葉に、リトは何も返さなかった。
ただ、また一枚、静かにページをめくった。
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