魔法使い時々王子
自室へ戻る途中、前方からエレオノーラが歩いてくるのが見えた。

「ニーナとは、話せましたか」

そう声をかけられ、アリスは足を止める。

「はい。……話せて、良かったです」

エレオノーラはその言葉に、何も問わず、ただ優しく微笑んだ。そして軽く会釈をすると、そのまま歩き去っていく。

「姉上」

今度は、後ろからセオの声がした。

エレオノーラは振り返る。

「今回のこと、ありがとう」

そう言って頭を下げるセオに、エレオノーラはきょとんとした顔で首を傾げ、おどけたように言った。

「……何のことかしら?」

「ルーナから、ちゃんと聞いています」

セオは微笑みながら続ける。

「アリスとニーナのこと。気にかけてくれて、ありがとう」

エレオノーラは、それ以上何も答えなかった。
ただ一度だけ視線を伏せ、そのまま背を向けて歩き出す。

長い廊下に、彼女の足音が静かに遠ざかっていった。

アリスは、その背中を見送りながら思った。

この王宮には、声高に語られぬまま、
誰かを守るために動く人が、確かにいるのだと。
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