魔法使い時々王子
第二十章 砕けぬ結晶、破れぬ掟
イスタリア王国、王宮の温室。
夜の帳が下り始め、硝子越しの月明かりが花々を淡く照らしていた。

シドは一人、長椅子に腰掛け、手の中の手紙を静かに見つめていた。
いや、見つめていたというより――もう何度目かも分からないほど、同じ文字をなぞっていた。

結婚式は、無事に終わりました。
王妃としての公務は思っていた以上に多く、毎日が慌ただしいです。

シドは一度、息を吐いた。
無事に終わった。その一文に、まず安堵する自分がいる。

ミロ王国では、相変わらず余所者のように感じることもあります。
けれど、気にかけてくれる方もいて……それだけで救われる思いです。

――ちゃんと、居場所を作っている。
それが分かって、胸の奥が少し緩む。

そして、最後の一文。

セオ様は、とても誠実で、優しい方です。

シドの指先が、わずかに止まった。
安心しているはずだった。
彼女が大切にされていると知って、喜ぶべきなのだと、頭では分かっている。

それでも――胸の奥に残る、ざらついた感情は消えてくれなかった。

「……困ったな」

小さく呟き、シドは手紙を畳む。
温室の花々は変わらず美しく、何も変わらない。
変わったのは、自分の立場と、アリスとの距離だけだった。
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