魔法使い時々王子
リトに向けて無数の視線が集まる中、晩餐会はそのまま始まった。

アリスは、隣に座るリトの所作を盗み見る。
背筋は伸び、ナイフとフォークの扱いも迷いがない。まるで長年この場にいる大人の貴族のようだった。

(……リトって、こんなに堂々としてたかしら)

思わず感心していると、アリスはふと気づいたように声をかけた。

「……リトも、今夜参加する予定だったのね。さっき教えてくれれば良かったのに」

その瞬間だった。

——ざわり、とも言えない沈黙が会場を包んだ。

周囲の貴族たちが一斉に手を止め、驚いたように二人を見つめている。
さきほどまでのざわめきが嘘のように、空気が張り詰めた。

(……え?)

アリスは戸惑い、視線を泳がせる。

リトはと言えば、まるで何も起きていないかのように平然としていた。

「……急に決まったんだ」

短くそう答え、再び食事に戻る。

それでも、周囲の視線は収まらない。
アリスは胸の内で焦った。

(今の、何かまずいこと言った……?)

理由は分からないまま、アリスも食事を続けるしかなかった。

その後は、隣に座るセオの親戚に話しかけられ、当たり障りのない会話が続いた。
晩餐会は表向きには、終始和やかに進んでいく。

やがてデザートが運ばれてきた。

アリスは一口食べたところで満腹を感じ、ふとリトの方を見る。

「……リト、これ、食べる?」

そう問いかけた瞬間、再び周囲が息を呑んだ。

アリスはますます混乱する。

(……一体、何なの?)

結局、その違和感の正体が分からないまま、晩餐会はお開きとなった。

少し離れた場所からその光景を見つめていたエレオノーラは、誰にも気づかれぬよう、静かに微笑んでいた。
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