魔法使い時々王子
アリスとリトは、人目のない回廊の突き当たりで立ち止まった。

一見すると、そこにはただの石壁しかない。
壁に掛けられた古いタペストリーが、静かに揺れているだけだった。

リトは迷いなくタペストリーを持ち上げ、壁の一部に手を伸ばした。
指先で、ある場所を軽く押す。

──カチリ。

乾いた音とともに、石壁がわずかに沈み込み、ゆっくりと内側へ開いた。

「……隠し扉?」

アリスは思わず息をのむ。

扉の向こうには、灯りのほとんど届かない細い通路が続いていた。
空気はひんやりとしていて、長い間誰も通っていないことがすぐに分かる。

「足元、気をつけて」

リトが先に立ち、慣れた様子で進み出す。

通路は途中で何度も枝分かれし、階段になったかと思えば、天井の低い横道へと続く。
古い木の扉、半分崩れかけた壁、封じられた小部屋。
城の“裏側”が、次々と姿を現していった。

「……リト、どうしてこんな道を知ってるの?」

思わずそう問いかけると、リトは歩きながら淡々と答えた。

「この城には、隠し扉や隠し部屋がたくさんあるんだ」

振り返らず、当たり前のように続ける。

「全部の部屋が描かれた地図は、何十年も前の火事で燃えたらしい。だから、今残ってる図面は不完全なんだ」

「……じゃあ、ここは」

「城全体の八割くらいは把握してる。残りの二割は、まだ見つかってない」

その言い方は、まるで城そのものを把握する役目を負っているかのようだった。

やがてリトは、一つの扉の前で足を止めた。
他の部屋よりも古く、装飾のない、ひっそりとした扉。

中に入ると、そこはほとんど光の届かない暗い部屋だった。
窓はなく、湿った石の匂いだけが漂っている。

「ここ」

リトが低い声で言う。

「見て」

彼に促され、アリスは壁際へ近づいた。
そこには、指先ほどの小さな穴が開いている。

恐る恐る覗き込むと──

向こう側に、明るく整えられた応接間が見えた。

そして、その部屋の中に。

「……!」

アリスは息を止めた。

数人の男たちが、低い声で話し込んでいる。
先頭に立っていたのは、先ほど中庭で見かけた人物。

「……カシウス」

アリスは、思わずその名を呟いた。
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