魔法使い時々王子
「下手に近づけば――こちらの魔力を吸い取られるわ」

「吸い取られる……?」

「ええ。まるで深い井戸に水を落とすように。魔法使いであればあるほど、奪われる。最悪の場合、枯れるでしょうね」

シドの喉が、ひくりと鳴った。

「……それを、国王は知っているんですか」

「危険性は伝えたわ。ただし」

ロザリアは視線を細める。

「魔法使いが近づかなければいい、とお考えのようよ。」

シドは息を詰めた。

「まさか……」

「星晶を掘り出すのは、魔力を持たぬ者たち。加工と制御は、こちらで行う。……そういう算段でしょう」

シドの拳が、無意識に握られる。

「……ミロの聖域を荒らしてまで?」

ロザリアはしばらく沈黙した。

やがて静かに言う。

「国は、豊かさを欲しがるもの。理屈では止まらないわ」

その瞳は、どこか疲れていた。

シドは歯を食いしばる。

「アリス王女は……何も知らない」

「ええ。知らせるつもりもないでしょう。婚姻は既に成立している。政治と切り離すのが“賢い選択”」

ロザリアはシドをまっすぐ見た。

「あなたはどうするの?」

問いは静かだが、重い。

シドは視線を落とし、やがてゆっくりと顔を上げた。

「……星晶について、もっと調べます」

「ミロのために?」

「……」

一瞬の沈黙。

「アリス王女のためです」

ロザリアの口元が、ほんのわずかに緩んだ。

「そう」

そして、柔らかく続ける。

「くれぐれも無茶はしないように。星晶は、あなたが思っている以上に“古いもの”よ」

部屋の結界が、静かに解かれた。

外のざわめきが、わずかに戻ってくる。

シドの胸の奥では、別のざわめきが消えなかった。
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