魔法使い時々王子
シドは独自に星晶について調べ始めた。

まずは、セラと共に最近頻繁に王宮を訪れているミロの使者の話し合いを、糸耳でそっと盗み聞きする。
星晶の流通量、採掘地の変動、そして“制御”という不穏な言葉が聞こえてきた。

断片的な情報だけだが、確かに何かが動いている。

その夜から、シドは書庫へ通い詰めた。

古い年代記。魔術理論書。禁書庫に近い棚の端に押し込まれた報告書。
星晶は古来より“魔力の増幅器”とされながら、その生成過程は明確ではない。
自然発生とする説。
隕星由来とする説。
かつて大規模な暴走事故を起こし、一国を半壊させた記録。

時代が変わるたびに、星晶は“恩恵”と“災厄”の両面を残してきた。

静まり返った書庫で、シドはゆっくりと息を吐いた。

――手を出してはならないものだ。

机に散らばる資料を見つめながら、シドは目を伏せた。

イスタリアはそれを求めている。
ミロはそれを守ろうとしている。

その狭間にいるのは――アリスだ。

もしこの件が本格化すれば、彼女は否応なく板挟みになる。父の国と、今いる国。そのどちらも裏切れない立場で。

「……なんで、よりにもよって」

低く呟いた声は、静かな書庫に溶けた。

星晶は砕けない。
掟も、簡単には破れない。

だがその間で、彼女の心が砕けてしまうことだけは――

それだけは、絶対にあってはならない。

シドは資料を閉じ、静かに立ち上がった。
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