その天才外科医は甘すぎる~契約結婚のはずが溺愛されています
 それ以上の会話はないまま、気がつくと関係者用の通用口が見えてきた。
 受付の少し手前の場所で、真澄がふいに足を止める。

 「この前君からは名刺をもらったのに、こちらからは渡せていなかったな」

 そう言って白衣の内ポケットから名刺入れを取り出すと、一枚の名刺を澪に向けて差し出した。

 「……ありがとうございます」

 受け取った名刺は、上質な手触りだった。
 視線を落とすと、綺麗な文字で印字された氏名と肩書きが目に入る。

 《柊木真澄》 
 《蒼林大学病院第一外科 准教授》

 (やっぱり肩書きがすごすぎる…)

 名刺一枚分以上の重みを感じて、自然と背筋が伸びてしまう。真澄はそれ以上何も言わず、ほんのわずかに口元を緩めると「それじゃあ」と歩き出していった。
 澪は軽く頭を下げてその背中を見送る。

 そして一人になってから、ふと名刺を裏返してみた。

 《今日の夜八時、病院の駐車場で》

 「えっ……?」

 真澄の手によって走り書きされた一文。
 それは業務でも、偶然でもない――明らかに私的な誘いだった。

 (待って、ど、どういうこと…?!)

 思考が追いつかないまま、心臓の音だけがバクバクと大きな音を立てていた。

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