その天才外科医は甘すぎる~契約結婚のはずが溺愛されています
 納品を終えて会社へ戻った澪は、支店内の営業フロアに入ると真っ先に営業部長のデスクへ向かった。

 「お疲れさま。どうだった?」
 「問題ありませんでした。こちら納品書と確認印です」

 そう言って伝票バインダーを手渡す。最後の署名欄には柊木真澄の整った筆跡が記されていた。

 「お、柊木先生直筆だ」

 営業部長が感心したように見つめるのを横目に、澪は軽く会釈をして自分のデスクへ戻った。椅子に腰を下ろして一息つく。けれど、すぐに仕事へ取りかかることはできなかった。

 《今日の夜八時、病院の駐車場で》

 (……あれはどういう意味なんだろう)

 渡された名刺の裏に書かれたメッセージ。

 仕事の相談?
 それとも、何か渡し忘れたものでもあった?

 でもそれならあの場で伝えるはずで、こんな回りくどい手段を取るとは思えない。

 頭では理解しようとしても、心だけが先走っていく。思考と感情のギャップに振り回されそうで、澪は軽く首を振って気持ちを立て直した。

 (今は仕事に集中しないと!)

 椅子に深くに座り直して端末を立ち上げると、背後から声がかかった。

 「小野寺さん、ちょっといいですか?」

 フロアの端から駆け寄ってきたのは澪の後輩だった。少し焦った様子で、手にはメモと納品書の控えが握られている。

 「香取くん、どうしたの?」
 「納品に行ってきた渋谷東口クリニックなんですけど、先週発注したレバミピド錠が届いてないって」
 「それってジェネリックよね?出荷ステータスは?」
 「完了になってます」
 「ちょっと見せてもらってもいい?」

 澪が端末を覗き込むと、キーボードを操作して出荷履歴画面を開く。発注番号、引き当て倉庫、配送便などをひとつひとつ確認しながら指が止まる。

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