その天才外科医は甘すぎる~契約結婚のはずが溺愛されています
 しばらくの逡巡のあと、澪はデスクに置いたスマートフォンを手に取った。メッセージアプリを開き、いつものトーク画面をタップする。表示されたのは、妹・ひよりの名前だった。

 《いま家?ごはんは食べ終わった?》

 メッセージを送ってすぐに既読がつく。

 《うん、朝作ってくれたカレーをあっためて食べたよ。自分でサラダも作ったの!えらくない?》

 続けて、テーブルに置かれた夕飯の写真が送られてきた。カレーライスの横にはガラスの器に盛りつけられたレタスとアボカド、ミニトマトのサラダ。
 得意げなひよりに思わず笑みがこぼれる。『えらい!』のスタンプをタップしてからもう一通。

 《ごめん、今日も残業で少し帰りが遅くなりそうなの》
 《了解〜またトラブル?大変だね》

 トラブル対応はもう終わっている。
 何となく後ろめたい気持ちになりつつも『まあそんなところ』と返信する。

 画面を閉じようとしたとき、ピコンと追加のメッセージが届いた。

 《そういえばさ、今日また《《あの人》》から電話があったよ》

 その一文を見た瞬間、澪はドキリとして急いで返信を打つ。

 《何か言ってた?》
 《おばあちゃんが出たんだけど、またいつもの話だったみたい。ほんとしつこいよね、今さら一緒に暮らすつもりなんてないのに》

 (またか……)

 もう五年も前に決着がついたはずの話。それを今さら蒸し返してくるなんて、いったいどういうつもりなのだろう。相手の意図が見えてこなくて、それが漠然と澪の心を憂鬱にした。

 《ひよりは気にしなくていいよ。私がちゃんと話すから》

 そう送ってすぐに『まかせて!』のスタンプをタップすると『ありがとう』と返ってきた。
 スマートフォンの画面越しに守りたい日常がある。この子がいるから頑張れる――それがいまの澪の原動力だった。

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