その天才外科医は甘すぎる~契約結婚のはずが溺愛されています
 蒼林大学病院に到着すると、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。

 澪は夜間出入口のほうから駐車場へと回ると、何台か車が止まっている。その中の一台、黒のセダンのそばに人影が立っているのが見えた。

 (……来てる。本当に)

 正直、半分は疑っていた。
 でもたとえ冗談だったとしてもいい、という気持ちで来てみたけれど。

 いざ本当に自分を待っている姿を見つけると否応なく鼓動が高まる。澪は早歩きになりそうな足を抑えて、呼吸を整えながらわざと歩幅を小さく歩いた。

 真澄の出で立ちは、白衣姿ではなく深いネイビーのスーツ。白いワイシャツは第一ボタンが外されていて、ネクタイもしていない。それだけでずいぶんと印象が違って見える。

 「来たんだな」

 真澄は静かに口を開いた。
 その声が少しだけ柔らかいような気がするのは、昼間との印象の違いのせいかもしれない。

 「はい……正直少し迷いましたけど」
 「だろうな。名刺の裏だけというのは不親切だったと後から気づいた」

 そう言いながら、ほんのわずかに口元が緩んだ気がした。

 (……こういうふうに、笑うんだ)

 ほんの一瞬の仕草。
 でも、目を奪われるには十分すぎた。

 何だかプライベートな一面を覗いたような気持ちになって、落ち着かなくて目を逸らしてしまう。

 「もう何か食べて来たか?」
 「いえ…まだですけど」

 返事をした次の瞬間には、真澄が助手席のドアを開けていた。

 「ならちょうどいい。まだ開いている時間だから乗って」

 澪は思わず「え?」と戸惑いの声を漏らした。
 つまり、この流れで食事に行くということなのだろうか。二人で?

 
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